お口から始める健康づくり 歯科健診のすすめ 歯科衛生士 澤井美枝子さん KCC一般財団法人 近畿健康管理センター

お口から始める健康づくり~歯科健診のすすめ~

更新日:

2022年6月に政府より、全ての国民に毎年の歯科健診を義務付ける「国民皆歯科健診」の具体的な検討が盛り込まれました(※1)。
歯科健診はなぜ必要なのでしょうか?このコラムではお口の健康から全身の健康を保つために知っていただきたいことについて、近畿健康管理センターの澤井が紹介いたします。

歯科健診から健康なお口を目指しましょう!

食事や会話をするとき、歯は重要な役割を担っています。1本でも失うことで正常な働きができず、違和感を感じることでしょう。失ってから大切さに気付いても手遅れなのです。日本歯科医師会が設立した8020推進財団の調査によれば、歯を失う要因は第1位が「歯周病」、第2位が「むし歯」になっています(※2)。歯周病は、歯垢の中の歯周病菌が歯肉に炎症を起こして、歯を支える組織を破壊していきます。痛みや自覚症状がないため重症になってはじめて歯科医院へ行かれる方が多いようですが、既に歯の周りの組織が崩壊している状況では手の施しようがありません。しかし、歯肉に炎症が生じた初期の段階で治療されれば、完治できる可能性が高くなります。自覚症状がない段階で虫歯や歯周病を発見するためにも健診を受診する必要があるのです。

お口と身体の関係性についてご存じでしょうか?

身体の入口はお口ですよね。
そのお口で発症した歯周病菌が歯肉から血管内に入り体のさまざまな病気に影響していることがわかってきています。


  • 糖尿病:インスリンの働きを低下させ、血糖値が下がりにくくなります(※3)。
  • 心臓病:心臓に血液を送る血管が狭くなったり(狭心症)詰まったり(心筋梗塞)します。また、心臓の内膜に歯周病菌がつくと、心内膜炎を引き起こし、命に関わることもあります(※3)。
  • 骨粗しょう症:骨の代謝に悪影響を及ぼすこともあります(※3)。
  • 肥満:歯周病が進行している人は、メタボリックシンドロームの発症が高まるとの報告があります。※メタボリックシンドロームとは、内臓脂肪型肥満に加え、高血糖、高血圧、脂質異常などの動脈硬化の危険因子が2つ以上重なった状態をいいます(※3)。
  • 脳梗塞:歯周病にかかっていない人と比較して、脳梗塞になりやすいという報告があります(※3)。
  • 認知症:動脈硬化を起こす要因の1つとして、歯周病が影響するといわれており、脳血管性認知症の原因になる可能性があります。また、アルツハイマー型認知症との関係について可能性があるとの報告もあります(※4)。
  • 誤嚥性肺炎:歯周病菌などの細菌が、唾液や食べ物と一緒に誤って気管に入ると、肺炎発症のリスクが高くなります(※3)。
  • 関節リウマチ:関節リウマチのリスクが高いことが報告されています(※3)。
  • 低体重児出産・早産:低体重児出産が起こりやすくなります。また、血液中に子宮の収縮を早める物質が生まれるため、早産も起こりやすくなることもあります(※3)。

歯周病だけでなくこれらの身体の病気も症状なく進行してしまうことがあります。

気付いた頃には、既に進行してしまっているという病気は少なくありません。

お口も身体も毎年の健康診断を受診されることで、病気の早期発見・早期治療に繋げることができます。また、通院や入院治療による時間や費用を費やさなくて済むことにも繋がります。

オーラルフレイルの予防に取り組みましょう!

「フレイル」という言葉をご存じですか。
フレイルとは、加齢によって心身が老い衰えた状態のことを言います(※5)。
具体的に3つの種類に分かれ

  • 筋肉の減少・低下といった「身体的な衰え」
  • 記憶力の低下・気分的なうつといった「精神・心理的な衰え」
  • 社会的な孤立・引きこもりといった「社会的な衰え」

これらが連鎖することで老いは進行します。

オーラルフレイルとは、歯や口の機能のささいな衰えのことをいいます(※6)。

滑舌の低下や食べこぼし、かめない食品が増えるなどの症状が認められた場合、放置することで食べることができなくなったり、栄養不足で筋力が衰えることもあります。また、転倒などによる骨折で入院生活から、寝たきりになることもあります。

日常生活の中で、フレイルの兆候に気づくことはむずかしいためフレイル予防の体操や日常生活で行える対策を実行されることをおすすめします。

「YouTube」にて【KKCチャンネル】をご覧いただき健康づくりの参考にしてください。
https://www.zai-kkc.or.jp/channel/

監修

  • 西村 明芳

    一般財団法人近畿健康管理センター常務理事 医学博士

    日本糖尿病学会専門医日本内分泌学会内分泌代謝科(内科)専門医
    日本温泉気候物理医学会認定温泉療法医
    日本医師会認定産業医・健康スポーツ医

制作協力

  • 一般財団法人近畿健康管理センター

    当センターは、滋賀県大津市に本部を構え、全国5カ所の事業部および10カ所の健診クリニック・診療所を拠点に、健康診断や人間ドック事業を展開しています。年間78万人の健康診断をはじめ、特殊健康診断、ストレスチェック、保健指導、健康セミナー等、広く地域・職域の方々の健康管理をサポートし、皆様の生涯健康づくりのパートナーを目指しています。四日市健診クリニックに楽天シニアのチェックイン端末が設置しておりますのでお気軽にお立ち寄り下さい。

    《主な事業》

    巡回型各種健康診断・検査に関する事業
    施設型各種健康診断・検査に関する事業
    健康の維持・増進等の普及啓発に関する教育・相談・指導・支援及び調査研究

    理事長:木村 隆

    設立:昭和48年4月1日
    URL:https://www.zai-kkc.or.jp/
    TEL:077-525-3233
    FAX:077-525-3900

※1
"経済財政運営と改革の基本方針2022について"
https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/cabinet/2022/2022_basicpolicies_ja.pdf

※2
"第2回 永久歯の抜歯原因調査報告書"(公益財団法人 8020推進財団)
https://www.8020zaidan.or.jp/pdf/Tooth-extraction_investigation-report-2nd.pdf

※3
村山洋二、西村英紀、岩本義博、高柴正悟:歯周病と全身疾患-歯周病の病態から-、日歯周誌、45(4):325-348、2003

※4
Zeng F, Liu Y, Huang W, Qing H, Kadowaki T, Kashiwazaki H, Ni J, Wu Z: Receptor for advanced glycation end products up-regulation in cerebral endothelial cells mediates cerebrovascular-related amyloid β accumulation after Porphyromonas gingivalis infection, J Neurochem.,158(3):724-736,2021

※5
"健康長寿に向けて必要な取り組みとは?100歳まで元気、そのカギを握るのはフレイル予防だ"(厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou_kouhou/kouhou_shuppan/magazine/202111_00001.html

※6
"オーラルフレイル"(日本歯科医師会)
https://www.jda.or.jp/oral_frail/

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