歯とお口の健康相談。東京医科歯科大学教授兼診療科長丸川恵理子先生

歯を失ってもあわてない 信頼できるインプラントの選び方

更新日:

年齢とともに歯を失う人は増え、75歳以上になると本来の歯の本数の約半分になる方もいます。歯を失う前の状態になるべく近い状態にし 、よく噛んでおいしく食べられるお口を取り戻すのが「歯科インプラント」です。いざというときのために、インプラントについて正しく知っておきましょう。

インプラントと入れ歯、ブリッジはどう違うの?

楽天シニア:
何らかの原因で歯を失ったとき、失った歯を補うために歯科ではどのような治療ができるのでしょうか。

丸川先生:
ブリッジ、入れ歯、そしてインプラントがあります。まずは残った歯の状態によって、選べる治療が変わってきます。
ブリッジは、失われた歯の両側にある歯を土台として橋渡しをする治療です。ですから、土台となる歯が残っていることが条件になります。また、土台となる歯が健全な歯でも、被せものをするためには削らなければなりません。

ブリッジ

楽天シニア:
せっかくの健康な歯を削らなければならないのですね。入れ歯はどうですか?

丸川先生:
部分入れ歯の場合は入れ歯を歯や顎堤(歯ぐき)で支えていますが、歯に留め金(スクラブ)等で入れ歯を引っかけるので、やはり歯が残っていることが条件です。見た目や取り外しの煩雑さが欠点となりますが、外科手術は必要ありません。

部分入れ歯

楽天シニア:
インプラントはどんな治療法なのでしょうか。

丸川先生:
インプラントはあごの骨にインプラント体と呼ばれる金属製のスクリュー(ネジ)を埋入し、人工歯をネジに装着する治療で、手術が必要です。単独で失われた歯を補うので、両側の歯の状態に影響されずに治療を行うことができます。

インプラント

楽天シニア:
それぞれのメリットとデメリットにはどんなものがありますか?

丸川先生:
入れ歯は保険適応内で治療でき最も手軽ですが、毎日取り外しする必要があるので、面倒に感じたり、抵抗がある方もいます。また、噛む力が20%程度弱まるので食べられるものが限られます。ブリッジは入れ歯の次に手軽で、取り外す必要はありませんが、健康な歯を削る必要があることが一番のデメリットです。インプラントは手術をする必要があり、費用が他の治療に比べて高額であることがデメリットといえますが、周りの歯の状態に影響されないこと、噛む力においては他の治療法よりも圧倒的に強く、歯が生えていたときと同じ状況で食事が可能になることが最大のメリットです。

インプラントとはどんな治療法?どんな人が向いているの?

楽天シニア:
インプラントはしっかり噛むことができて、見た目も機能も本来の歯に近いということですが、天然歯とはどこが違いますか?

丸川先生:
天然歯の場合は、歯根膜という膜を介して歯と骨がくっついていますが、インプラントは歯根膜がありません。歯根膜には感覚機能がありますが、インプラントにはないため、強く噛みすぎたり、炎症が起きた場合に気づきにくかったりする場合があります。
また、天然歯は動かすことができますが、インプラントは動かすことができないので、矯正治療を考えている場合はインプラントのタイミングとあわせて計画することが必要になります。

天然歯とインプラントの違い

楽天シニア:
インプラントは安全でしょうか。
 
丸川先生:
人工物を体内に埋めるということでいえば、インプラントは骨折の時に入れる人工関節やペースメーカーと同じチタンでできているので、安全性は非常に高いと思います。また、インプラント手術が行われるようになって約50年の間に、技術やシステムは絶え間なく改良されてきました。以前は手術の際に神経を傷つけて麻痺を引き起こすなどの事故があったのは事実です。現在ではCTを活用することにより、インプラント手術の安全性と精度は飛躍的に高まりました。

楽天シニア:
インプラントができない人はいるのでしょうか。たとえば、インプラントを埋め込む骨がない人でも手術はできますか?
 
丸川先生:
できます。骨が足りない方には、骨移植という方法があります。骨移植は自分の骨や人工材料、それらを混ぜたものを骨が足りないところに移植し、インプラント埋入が可能な状態にすることです。家を建てるのに土台がしっかりしていないと家が倒れるのと同じで、インプラントでも土台づくりが大切なのです。

インプラントはみんな同じではない!知っておきたいポイント

楽天シニア:
インプラントであれば、どのメーカーでも同じなのでしょうか。
 
丸川先生:
そんなことはありません。しっかりとした研究開発を行う老舗メーカーもあれば、そうでないメーカーもありますし、メーカーが違えば素材もネジの形状も違います。将来のアフターケアのことを考えても、どのメーカーのインプラントを使って手術を行うのかを知るのは、患者さんの権利と言えるでしょう。

楽天シニア:
価格に差があるのはメーカーの違いもあるのでしょうか。

丸川先生:
残念ながらインプラントの場合、品質と価格はある程度、比例します。高ければ高いほどいいというわけではありませんが、あまりにも安い場合は注意が必要です。インプラントの技術も日進月歩ですので、価格だけでインプラントを選ぶことはあまりお勧めできません。

楽天シニア:
インプラントの最先端技術にはどのようなものがありますか?

丸川先生:
1つは「即時治療」、もう1つは「ナビゲーションサージェリー」です。
「即時治療」には、「抜歯即時埋入」と「即時負荷」があります。通常、インプラントは抜歯を必要とする場合、細菌感染を起こさないように抜歯から2~3か月後にインプラントを埋入しますが、患部周辺に感染や骨吸収がないなどの条件を満たせば、抜歯後すぐにインプラント治療を行うことが可能になりました。これが「抜歯即時埋入」です。さらに条件が合えば、インプラント埋入後、上部構造の仮歯は骨とインプラントの結合を待って通常3~6か月後に装着するのですが、インプラント埋入と同時に仮歯まで装着するのが「即時負荷」です。見た目を含む機能回復を即日に行える「即時治療」は、多忙な現代人にとって大きなメリットといえます。

楽天シニア:
手術の回数が減ったり、治療期間が短くできたり、すぐに噛めるようになるのは患者さんにとってはうれしいですね。「抜歯即時埋入」と「即時負荷」は同時にはできないのですか?

丸川先生:
例えば、「抜歯即時埋入」と「即時負荷」が同時にできる「All-on-4®」という治療コンセプトに基づいた手技も開発されています。「All-on-4®」は、これまで総入れ歯でしか対応できなかった無歯顎(歯が1本もない状態)でもインプラントで対応できる画期的な手技です。埋め込むインプラントは最少4本で、手術時間も短く身体的負担が少ないのもポイントです。
※All-on-4®はノーベルバイオケア社の登録商標です

楽天シニア:
「ナビゲーションサージェリー」についても教えてください。

丸川先生:
インプラントを埋め込む骨の形や質、高さ、幅には個人差があり、骨の中には神経や血管が通っています。そこで治療前にCT撮影を行い、CTスキャンの画像をもとに神経や血管を避けながら、適切なインプラントの埋入位置・角度・深さ・サイズなどをシミュレーションし、精度の高い治療計画を立てます。インプラント埋入時は、ナビゲーションシステムが示す骨の中の神経や血管の位置情報をリアルタイムに確認しながら手術を実行するので、より安全で精度の高い手術が受けられます。これが「ナビゲーションサージェリー」です。

楽天シニア:
ナビゲーションサージェリーはどこの医療機関でも受けられるのでしょうか。

丸川先生:
日本国内でナビゲーションサージェリーに使用する機器の薬事承認を取得しているのは数社のみ、ナビゲーションサージェリーを施術できる施設は東京医科歯科大学をはじめ数百施設です。

どんな医療機関でインプラント手術を受ければいいの?

楽天シニア:
インプラントはメーカーによって異なり、受けられる施術は医療機関によっても違うことがわかりました。インプラント手術を安心して受けるには、どんな医療機関を選べばよいのでしょうか。

丸川先生:
治療前にCT撮影を行うことと、治療について患者さんにきちんと説明してくれること。この2つは、信頼できる医療機関選びの最低条件といえます。
CT撮影によって、顎の骨の立体的な形態や、神経や血管の位置を確認できるほか、骨密度を推察することもできます。CTで土台を確認してから家を建てる(インプラント治療を行う)ことは、インプラント治療において必須であると知っておいてください。
また、患者さんへの説明については、使用するインプラントのメーカーやシステムのほか、移植骨やインプラントの素材、アフターケアやリスクなどについてしっかり説明をしてもらえるかどうかが大切です。もしも説明してもらえない、説明に納得できないという場合は、セカンドオピニオンとして大学病院などを受診するのもよいでしょう。
 
楽天シニア:
インプラントを検討するにあたり、患者さんが知っておいた方がいいことはありますか?

丸川先生:
よく、「歯を抜かれる」という言い方をする患者さんがいらっしゃいますが、治療にとって、歯を残すことが必ずしもベストとは限りません。抜かずに放置した結果、外から見えない土台の骨がボロボロになっていたりすることもあります。歯は抜く時期も大切であること、歯科医にとって歯を抜く判断も必要であることは知っておいていただきたいと思います。
また、インプラントは入れたら終わりではありません。せっかく入れたインプラントを長く使い続けるためには、口内のチェックを定期的に行い、ブラッシングやクリーニングで清潔に保ちながら、歯周病や炎症、咬合の異常などに早めに気づくことが大切です。

まとめ

・歯を失う前の状態になるべく近い機能や見た目にできるのがインプラント
・インプラントはみんな同じではない 信頼できるインプラント選びを
・医療機関選びも大切 CTを使い、丁寧に説明してくれるところを

監修

  • 丸川恵理子 先生

    東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科 口腔再生再建学分野・口腔インプラント科

    教授・診療科長

    東京医科歯科大学歯学部卒業後、ドイツFreiburg大学顎顔面外科に留学。帰国後、東京医科歯科大学大学院歯学研究科博士課程修了。東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科顎口腔外科学分野助教、准教授を経て2021年8月より現職。

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