四国88カ所の霊場を、ご真言を唱えながら歩く旅を「お遍路」といいます。お遍路には、実は心身のバランスを整えるすぐれた健康効果があるのだとか。疲れが抜けないときは、思い切ってお遍路の旅に出てみては?
お遍路が促す自然治癒力
「四国遍路」の起源は平安時代にさかのぼります。弘法大師・空海が若かりし頃に心を病んで、四国の山野を、ご真言を唱えながら歩く修行で悟りを開いたというのがその始まり。
今日でも大勢の人が、弘法大師の足跡をたどって歩いています。
お遍路には「幸せホルモン」と呼ばれるセロトニン神経が活性化する、いくつもの要素が含まれています。
まず日光を浴びながらウォーキングを続けるという「太陽の光」と「歩行のリズム運動」。それからご真言を唱えるという「呼吸のリズム運動」、そして「集中」。また何日にも分けて歩くので「疲れない程度の運動の継続」というのもポイントです。
沿道には休息のための宿場が転々と建てられ、旅の疲れを癒す施設も整っていました。そこはお遍路を共に行う仲間たちのとの癒しの場。愛情ホルモンといわれる「オキシトシン」が分泌する効果も期待できるところなのです。
世界では、スペインの「サンティアゴ・デ・コンポステーラ」の巡礼路が有名です。聖ヤコブ(スペイン語でサンティアゴ)の遺骸がある聖地に向けて歩く旅で、お遍路と同様、道中に宿泊所が転々と作られており、これらは「ホスピス」と呼ばれました。今の「病院(ホスピタル)」の語源です。
四国遍路やサンティアゴ巡礼に出る人々の中には体を病んだり、心に深い悩みを抱えた人も含まれていました。そして道中でその病気が癒されたというエピソードもたくさん報告されています。
それらは神や仏の起こした奇跡と崇められてきましたが、現代医学では自然治癒力であるセロトニンとオキシトシンの働きによるものと解釈されています。
日本の霊場巡りは四国だけではなく、西国33カ所、秩父34観音巡りや、世界遺産にもなった和歌山県の熊野古道など、全国各地にあります。
特別な霊場でなくとも、近年は週末や休日に近隣の神社やお寺をお参りして歩き、お札や御朱印をいただいたりすることも盛んになってきました。
聖地を巡って歩くのは、IT社会で疲れた心と体を癒すセロトニン活性化の旅。それだけでなく、電車もバスも使わない、まさに究極のエコ旅でもあります。ぜひ一度、体験してみてはいかがでしょうか。
監修
有田秀穂先生
医師・脳生理学者
制作協力
からだにいいこと
創刊20周年を迎えた健康生活情報誌『からだにいいこと』。医師や専門家の監修のもと、「いますぐできる」「心も体も元気になれる」健康・美容・ダイエット情報を発信中。
【出典・参考文献】
『医者が教える疲れない人の脳』(三笠書房)